どのマスタリング・リミッターを使えばいいの?
もはや定石となっているマスターチェインの最後でのリミッターのインサート。実はリミッターにも様々な選択肢があります。今回、あなたの音楽に最も効果的なリミッターを選ぶ方法をご紹介いたします。
セルフマスタリングにおいて、アルバムの全曲、もしくはオンラインで公開する1曲だけのものであっても、マスタリングの最後のプロセッサーとして高品質のリミッターを使用します。SpotifyやApple Music、YouTubeなどのストリーミングサービスではラウドネス制限が設けられているため、他の音源とのレベル差を埋めるために音楽の命(ダイナミクス)を削る必要はなくなりました。しかし、リミッターは、音楽を標準的な一定のリスニングレベルに引き上げるためには不可欠です。時には周波数やトランジェントを微妙に変化させることもあるでしょう。このガイドを使って、あなたの曲にどのタイプのリミッターが適しているかを判断するのに役立ててください。
2021.06.08
リミッターをインサートするとどうなるの?
リミッターに馴染みのない方のために説明すると、リミッターはコンプレッサーと同じように機能しますが、圧縮比率(Ratio)が非常に高いのが特徴です。マスタリングの現場で使用されるブリックウォール・リミッターは、無限大:1の比率を持っています。
リミッターは、信号のピークを減らし、全体のレベルを上げることでその役割を果たします。ピークが減ることでダイナミックレンジが狭くなり、リミッターがメイクアップゲインをかけ信号全体の音量を大きくすることができます。
図1)リミッター処理前(左)とリミッター処理後(右)
ブリックウォール・リミッターをイメージするには、オーディオを天井に押し付けるようなものだと考えてください。これ以上は上がらないので、押し上げれば押し上げるほど、最低レベルと最高レベルの間の距離は縮まっていきます。しかし、押し上げすぎると、オーディオは押しつぶされてダイナミクスが不足するだけでなく、歪みの原因にもなります。
リミッターはミキシングとマスタリングの両方で使用されますが、後者の場合、その主な目的はオーディオを透過的に大きくすることです。言い換えれば、処理されていることを感じさせずにレベルを上げることです。とはいえ、 ヴィンテージサウンドのような特徴を加えたい場合もあります。その場合は、リリースの設定を変えたり、古いハードウェアプロセッサをモデルにしたプラグインを使ったりすることで実現できます。
リミッター後の処理?
マスタリングの際、一般的にリミッターの後に行われる処理がディザリングです。多くのマスタリングリミッターにはディザのオプションが用意されています。ディザリングとは簡単に言うと、デジタルオーディオのビット深度を減らす際に、信号に意図的に加えられる非常に低いレベルのノイズ(ホワイトノイズによく似ています)のことです。
例えば、24ビットのミックスを、ストリーミングサービスやCDの複製用に16ビットに変換する場合は、ディザが必要になります。ビット深度を減らす作業は、"リクォンタイズ "や "トランケート "とも呼ばれています。
詳細は省きますが、ディザはデジタルファイルのビット深度を下げる際に発生する「量子化歪み」と呼ばれる現象を抑える役割を果たします。また、「ノイズシェーピング」と呼ばれるディザリングもあります。これは、ディザをさらに聞こえずづらくするための追加処理です。このオプションは、マスタリング・リミッターを含む、ディザリング機能を備えたほとんどのソフトウェアに搭載されています。
あなたはどのリミッター?
さて本題です。ピークリミッターといっても、様々なタイプがあり、それぞれのワークフローも異なります。ソースや使用方法によっては、リミッターよりも便利なものもあるかもしれません。
Wavesはマスタークオリティーのピークリミッターを開発しており、その機能と性能は様々です。L2シリーズとL3シリーズのリミッターはマスタリング用に特別に作られたもので、(シリーズのいくつかのバリエーションはミキシングにも適していますが)Wavesは最近、EQ、フィルタリング、ステレオイメージングに加えてコンプレッサー/リミッターを提供するAbbey Road TG Mastering Chainをリリースしました。
それでは、これらのマスタリング・リミッターの選択肢をいくつか確認していきましょう。
L2シリーズ
L2 Ultramaximizerは「ワイドバンドリミッター」と呼ばれ、音楽の周波数スペクトル全体を同じように処理します。低音域のピークも中音域や高音域のピークと同じように処理されます。
また、「先読み」機能を搭載。入力された信号を処理前に解析。歪み発生させず、設定されたリミッター量を適切に達成できます。
また、L2 Ultramaximizerには、プログラムに依存してリリースタイムを決定する「オートマチック・リリース・コントロール」が搭載されています。 ピークリミッターの設定において、リリースタイムは非常に重要な要素であり、手動で設定するのは容易ではないため、有用な機能です。リリースタイムの設定が短すぎると耳障りなポンピングが発生し、長すぎると音楽が過度に圧縮されて生気のない音になってしまいます。
L2 Ultramaximizerには、他のシリーズのリミッターと同じ構成のスレッショルドとアウトプット・シーリング・コントロールが搭載されています。スレッショルドとアウトプット・シーリングのスライダーを同時に下げることができるリンク・コントロールが、隣り合う2つのスライダーの間にあります。これは、処理された音と処理されていない音を、音量でごまかさず比較する際に便利です。スレッショルドの設定に満足したら、アウトプット・シーリングをマスターに必要なレベルまで上げることができます。
L3シリーズ
IDRセクション、スレッショルド、アウトプット・シーリング・コントロールはL2と同じですが、L3 Multimaximizer は、全周波数帯域をまとめて処理するのではなく、最大5つの周波数帯域を個別に処理することができる点が異なります。
各バンドの周波数範囲を設定できるだけでなく、プラグインのプライオリティコントロールを使用して、L3 Multimaximizer に各バンドの制限を強めたり弱めたりすることができます。これにより、オーディオのどの部分にリミッターをかけるかをより細かくコントロールすることができます。
マルチバンド・リミッティングの方が良い場面とは?例を挙げてみましょう。 例えば、スネアドラムのヒットによるピークが多い曲を作っているとしましょう。マルチバンドリミッターを使えば、スネアの周波数帯の中心部分をカバーするゾーンを設定し、他のゾーンよりも強く制限することができます。こうすることで、ミックスの他の部分はダイナミックレンジをより多く維持しながら、スネアドラムからのピークを望ましいレベルまで低減することができます。
各周波数ゾーンには、それぞれのバンドのゲイン/ブースト・コントロールも含まれており、実質的に5バンドEQとなっています。また、リリース・コントロールはそれぞれ個別に設定できます。
のもう一つの特徴は、9つの選択可能なプロファイルが追加されたことです。これは、異なるレスポンスタイプ(主にリリースタイムのコントロール)を調整するもので、自分の音楽に最適なものを試してみることができます。L3には他にもいくつかの種類があります。
L3 Ultramaximizerは、L2のようなインターフェイスで、マルチバンドエンジンを搭載したように見えますが、異なる周波数帯をユーザーがコントロールすることはできません。プロファイルを選ぶ「プリセット」スタイルのアプローチを好む場合におすすめです。
L3モデルのリニアフェイズクロスオーバーにはかなりのレイテンシーがあるため、L3 Multimaximizer に付属しているレイテンシーの低いミニマムフェイズクロスオーバーを使用した低レイテンシーの「LL」バージョンがあります。これらは、ミックス内の特定のトラックやバスにピークリミッターをインサートしたいが、標準バージョンのレイテンシーやCPU負荷をかけたくない場合におすすめです。
最も強力でL3シリーズ最新のリミッタープラグインはL3-16 Multimaximizerです。実は画面の下には16バンドのリミッターを搭載しており、フロントパネルからは6バンドにアクセスできます。複数の周波数領域で異なるリミッティング量を設定したい素材を扱う場合、L3-16 Multimaximizerは必要な柔軟性とパワーを与えてくれるでしょう。しかし、そこまでのユーザーコントロールが苦手な方は、シンプルなL3バージョンを選択した方が良いでしょう。
Abbey Road TG Mastering Chain
Abbey Road TG Mastering Chainは、単なるリミッターではなく、総合的なマスタリング・プロセッサーです。このプラグインは、70年代初頭 アビー・ロード・スタジオのマスタリング・スイートに設置されているTG12410 Transfer Consoleをモデルにしています。
このプラグインには、入力、EQ、リミッター、フィルターの4つの独立したモジュールと、出力セクションが含まれています。リミッターには、
- コンソールのオリジナル・コンプレッサー・モードをベースにした「オリジナル」
- コンソールのリミッターをベースにした「リミット」
- ローレベルのマスタリング・コンプレッション用に設計されたVCAスタイルの「モダン」
の3つのモードがあります。3つのリミッターモードはいずれもブリックウォールタイプではないため、レベルが0dBFSを超えてデジタルクリッピングが発生しないように注意して設定してください。リカバリー(リリースタイム)コントロールで設定できるアタックとリリースの組み合わせは、6種類がプリセットされています。
このプラグインをリミッターとして選ぶ有能な点はいくつかあります。
1つ目は、ステレオに加えてデュアルモノやMSモードでも処理できること。Abbey Road TG Mastering Chainの各モジュールは、この3つのうちのどれかで操作できます。欲を言えば、MSモードのみでベース、キック、スネア、ボーカルなどのセンター要素を制限し、シンバルやギターなどのサイド要素に影響を与えないようにすることもできます。
デュアルモノは、ステレオの左右で異なるリミッター設定をしたい場合に便利です。例えば、フロアタムのような大音量のソースが、曲の一部でミックスの片側を中心に発生しているとします。ステレオモードであれば、そのフロアタムがリミッターを作動させ、大音量のフロアタムが片側にしかないにもかかわらず、両サイドを同じように下げてしまいます。デュアルモノモードの場合は、それぞれの側が独立しているので個別に処理可能なのです。
2つ目の理由は、モデル化されたビンテージEQとビンテージテープEQコントロールを使って色付けをしたい場合です。さらに、このプラグインには、ステレオイメージを広げるために使用するスプレッダーも搭載されています。
ただし、Abbey Road TG Mastering ChainにはIDRセクションがありませんので、ディザが必要な場合は別途での処理が必要です。
そして最後に
ご覧のように、Wavesはマスタリング用リミッターにいくつかの選択肢を用意しています。それぞれが異なるレベルの調整機能を備えています。 シンプルにトラックの音量をより大きくしたいだけで、マルチバンドリミッターの柔軟性を必要としないのであれば、L2がベストな選択でしょう。 マルチバンドプロセッシングの柔軟性が必要な方はL3をお選びください。さらに徹底的に調整したい人はL3-16 Multimaximizerで、リミッティングを究極にコントロールできます。 Abbey Road TG Mastering Chainは単体でも、L-Seriesのリミッターと組み合わせても使用できます。マスタリングだけでなく、トラッキングやミキシングにも最適です。
いかがだったでしょうか。
色々なリミッターが存在しますが、それぞれ特徴があることがわかりますね。
本記事を読むことで、どのタイプのリミッターが自分に合っているのか、なんとなくでもわかったんじゃないでしょうか。
さあ、早速デスクに向かって制作を始めましょう。
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